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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10667号 判決

大阪市住吉区苅田九丁目一五番三四号

原告

カメヤマ株式会社

右代表者代表取締役

小田部猛

右訴訟代理人弁護士

小野昌延

山上和則

東京都荒川区東日暮里六丁目五五番一〇号

被告

佐藤油脂工業株式会社

右代表者代表取締役

佐藤一元

右訴訟代理人弁護士

杉林信義

仁平勝之

富永豊子

右輔佐人弁理士

内正秀

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙目録(3)の包装箱(以下「被告包装箱」という)のローソクを譲渡してはならない。

二  被告は、その占有する被告包装箱及び被告包装箱のローソクを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係(争いがない)

1  原告製造販売にかかるローソクを収納する包装箱

原告は、その製造にかかるローソクを別紙目録(1)の包装箱(以下「原告包装箱(1)」という)又は別紙目録(2)の包装箱(以下「原告包装箱(2)」という)に収納して、販売している(合わせて、単に「原告包装箱」という)。

2  被告包装箱

被告は、ローソクを被告包装箱に収納して平販売している。

二  原告の請求

原告は、原告包装箱は、遅くとも昭和四八、九年頃には、その中に収納されているローソクが原告製造にかかる商品であることを表示する商品表示として周知性・著名性を取得しているところ、被告包装箱は、原告包装箱に類似しているから、原告の商品との誤認混同を生じさせるおそれが大きく、不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争に当たると主張して、同法三条に基づき被告包装箱に収納したローソクの譲渡の停止並びに被告包装箱及びこれに収納したローソクの廃棄を求めるとともに、同法四条、五条一項に基づき損害賠償として一三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一〇月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

なお、被告は、昭和五六年頃から平成五年頃までの間、被告は乙第三一号証の包装箱に収納してローソク(商品名「HOMEローソク」)を販売していたところ、原告はこのことを知りながら長期にわたって放置してきたから、原告の本訴請求は権利の濫用に当たり、信義誠実の原則に反するものである旨主張する。

第三  争点

一1  原告包装箱は、原告の商品表示として周知性を取得しているか。

2  被告包装箱は、原告包装箱に類似し、原告の商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか。

二1  原告包装箱は、原告の商品表示として著名性を取得しているか。

2  被告包装箱は、原告包装箱に類似しているか。

三  被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対して賠償すべき損害の額。

第四  争点に関する当事者の主張

一  争点一1(原告包装箱は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)及び争点二1(原告包装箱は、原告の商品表示として著名性を取得しているか)について

【原告の主張】

原告包装箱は、後記AないしDの特徴を有しており、遅くとも昭和四八、九年頃には、その中に収納されているローソクが原告製造にかかる商品であることを表示する商品表示として周知性・著名性を取得している。

1 原告包装箱は、次のとおりの特徴を備えている。

A 箱の基本的な色彩は、濃紺である。

B 箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は、白、赤、黄、青の四色である。

C 箱を構成する六面のすべてが白枠で囲まれている。

D 箱の正面は「窓あき」となっていて、収納したローソクが見える。

2 原告は、昭和二年二月にローソクの製造販売を開始した個人営業の亀山蝋燭製造所が昭和二一年一〇月二一日に法人化された会社であり、個人営業時代を含めると今日まで約七〇年間にわたり、ローソクを製造、販売してきている。

そして、原告が製造するローソクを収納する包装箱のデザインは、会社設立以来様々な変遷を経てきたが、原告は、遅くとも昭和四六年から、前記AないしDの特徴を備えた原告包装箱に収納して販売してきている。原告包装箱に収納されたローソクは、全国各地で莫大な数量が販売され、また、原告は、最近では年間約三億円もの巨費を投じてテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等を通じた宣伝広告活動を行っている。

その結果、前記AないしDの特徴を備えた原告包装箱は、遅くともその採用から数年後の昭和四八、九年頃には、その中に収納されているローソクが原告製造にかかる商品であることを表示する商品表示として取引者・需要者の間において周知性を取得し、著名性をも取得している。

3 被告は、原告が原告包装箱の特徴として挙げるAないしDの点はいずれも格別の特徴というようなものではない旨主張する。

しかしながら、仮にAないしDの個々の点が格別の特徴というものではないとしても、そのことは、これらの組合せが格別の特徴でないことを意味するものではない。このことは、原告・被告以外の第三者製造販売にかかるローソクの包装箱において、原告包装箱におけるAないしDの点の組合せに類似する包装箱が存在しないことから一目瞭然である(検甲一の1・2)。検乙第一、第二号証の包装箱は、原告包装箱に近いようであるが、仮に類似しているとしても、検乙第一、第二号証の包装箱自体が原告包装箱を模倣したものであるからであって、原告との関係では不正競争を構成する包装箱なのである。したがって、このようなそれ自体不正競争に当たる類似包装箱があることによって、不正競争者である被告の主張が正当化されることはない。

また、被告は、甲第一ないし第二一号証はいずれも単に会社の歴史に関するものや原告の登録商標「カメヤマローソク」の登録経緯に関するものであって、原告包装箱の周知性・著名性を何ら立証するものではない旨主張するが、右各書証によれば、原告が個人営業時代を含め昭和二年以来約七〇年間にわたり、ローソクの製造、販売に営々と努力してきたこと、その結果、国内市場の約四〇%の占有率を達成するに至っていること、したがって、前記AないしDの特徴を備えた原告包装箱は、それが採用された昭和四六年から数年以内には、周知性・著名性を取得したことが明らかなのである。確かに、被告主張のように原告包装箱には「カメヤマ」という商標も付されており、この「カメヤマ」という商標も、AないしDの特徴を備えた原告包装箱と同時に、周知・著名になったのであるが、このことは、AないしDの特徴を備えた原告包装箱が果たす出所表示機能、自他識別機能とは別次元のことであり、これらの機能に何ら影響を与えるものではない。

【被告の主張】

1 原告が原告包装箱の特徴として挙げるAないしDの点は、次のとおりいずれも格別の特徴というようなものではなく、その内容物であるローソクが原告の商品であることを表示するものとして出所表示機能、自他識別機能を有するものではない。

(一) そもそも色彩の使用は何人も自由であるから、特定人に排他的使用権が認められるわけではなく、色彩のみでは商品表示たりえない。商標法二条も、色彩をもって商標構成の付随的要素として位置づけており、色彩は、それ自体単独にて出所表示機能、自他識別機能を有しないとし、文字、図形又は記号と結合した構成のもとにおいてはじめて特別顕著性を有することになることを定めている。

(1) Aの、箱の基本的な色彩は濃紺であるとの点は、濃紺を地色として、ごくありふれた長方形に塗りつぶしたものにすぎない。

(2) Bの、箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は白、赤、黄、青の四色であるとの点は、右のありふれた長方形の面に、白抜きで、又は赤、黄、青の単色で点在させたごくありふれた色彩、配色にすぎない。

(3) Cの、箱を構成する六面のすべてが白枠で囲まれているとの点については、この白枠なるものは、顕著な輪郭線を施して他と区画されてなるものではなく、該白色部分は、包装箱自体の素材白色生地そのものであり、印刷技術上従来より実施されている公知公用のものにすぎない。

(二) Dの、箱の正面は「窓あき」となっていて収納したローソクが見えるとの点は、通常のアーチ型立体意匠にすぎず、該包装箱の分野において従来より類型的に実施されているごくありふれたものである。

(三) 原告包装箱には、正面及び背面に「カメヤマ」あるいは「KAMEYAMA」の文字が、正面、背面、平面及び底面にマークが、それぞれ目立つように表示されているし、また、原告は、「カメヤマローソク」あるいは「カメヤマのローソク」として宣伝している。

もともと需要者は、ローソクを包装箱の色彩で選択、購入しているわけではない。

2 原告が原告包装箱の周知性・著名性の立証として提出する甲第一ないし第二一号証は、いずれも、単に会社の歴史に関するものや原告の登録商標「カメヤマローソク」の登録経緯に関するものであって、原告包装箱の周知性・著名性を何ら立証するものではない。

二  争点一2(被告包装箱は、原告包装箱に類似し、原告の商品との誤認混同を生じさせるおそれがあるか)及び争点二2(被告包装箱は、原告包装箱に類似しているか)について

【原告の主張】

1 被告包装箱は、原告の商品表示として周知・著名な原告包装箱の前記AないしDの特徴をすべて備えていて酷似しており、たとえ包装箱に表示されている商標が異なっていても、被告の商品をもって原告の商品であるとの誤認混同を生じさせるおそれが極めて高い。

2 原告包装箱と被告包装箱の類否についての被告の主張は、以下のとおりいずれも相当でない。

(一) 被告が、原告包装箱(1)、原告包装箱(2)、被告包装箱の態様として主張するところは、いずれも、意匠法における類否判断の前提となるような単なる記述説明にすぎない。

不正競争防止法においては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両商品表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として(最高裁昭和五九年五月二九日判決・民集三八巻七号九二〇頁)、そして離隔的観察方法によって判断すべきであるのに、被告の主張にはかかる観点がない。

(二) より具体的にいえば、不正競争防止法二条一項一号における類否判断は、第一に、混同行為という動的な営業活動面から出所混同のおそれを基準として考えるべきであり、抽象的に表示の構成自体の静的かつ形式的対比のみでなすべきものではなく(東京地裁昭和五六年八月三日判決・判例時報一〇四二号一五五頁)、第二に、表示を全体として観察して判断しなければならず(最高裁昭和四三年二月二七日判決・民集二二巻二号三九九頁)、第三に、離隔的観察(時と場所を離して比較対照)によらねばならず、対比的観察(同時同所において比較対照)によってはならない(大阪高裁昭和四三年一二月一三日判決・判例時報五六四号八五頁)。ところが、被告は、全体的観察によることなく、超近視眼的な対比的観察に基づき、静的かつ形式的対比により、被告包装箱は原告包装箱に類似しないとの結論を導いているにすぎない。

【被告の主張】

以下のとおり、被告包装箱と原告包装箱とは、各面の対比観察及び全体観察において、窓の立体形状・模様、無彩色(白、黒、灰色など)及び有彩色(赤、黄、青など)を含む色彩とこれらの結合並びに感性美などを総合勘案すると、色彩を施してなる模様・図形(図柄)を含む全体の形態の印象が全く異なる非類似の意匠であり、また、各面における無彩色又は有彩色を施してなる文字及び図形は、その文字の種類、形状、図柄模様等を含む構成態様が全く相違し、表示された商標は外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似の域を脱しているから、被告包装箱は、原告包装箱との間で誤認混同を生じさせることはない。

1 原告包装箱は、いずれも、全体が縦長方形状包装用箱の意匠であり、各面は極めてありふれた長方形に塗りつぶした紺地色で、正面及び背面は縦長方形状、左右側面は横幅が正面及び背面の二分の一の縦長方形状、平面及び底面は左右側面の略二分の一の横長方形状からなる。

(一) 原告包装箱(1)の各面の具体的な構成は次のとおりである。

(1) 正面

略中央位置にアーチ立体形状の窓が施され、窓の上に傘状赤色モノグラム図形とその上のブリッジ型白抜きの「KAMEYAMA」の欧文字、下に黄色片仮名で「カメヤマ」の文字、左右に品質を示す漢字が表示されている。

(2) 平面及び底面

横長方形状内に、正面の傘状赤色モノグラム図形と同一の図形及び白抜きで記号・符号が表示されている。

(3) 左右側面

縦長方形状内に、赤色片仮名で「カメヤマ」、白抜き片仮名で「ローソク」の各文字が、右側面と左側面とで逆に上下各方向より表示され、その他左側面には青色欧文字が表示されている。

(4) 背面

上部に正面のものと同じ傘状赤色モノグラム図形が表示され、その下に、炎が赤色に灯った三本の白色ローソクが段違いの青色燭台に突き立ち、各燈火を中心に内側から外側へ順に黄色、白色、薄空色、白色、濃い空色及び薄空色を施してなる同心円輪が、左右両側の各同心円輪が中央の同心円輪に重合するように位置している図形が表示されており、その下の白抜き矩形内に各種文字が、下部に黄色で「カメヤマローソク」の文字などが表示されている。

(二) 原告包装箱(2)の各面の具体的な構成は次のとおりである。

(1) 正面

略中央位置にアーチ立体形状の窓が施され、窓の上に前記(一)(4)の灯った三本の白色ローソクと段違いの青色燭台の図形と同じ図形が表示され、下部に黄色で「カメヤマ」の文字、その他白抜きで各種文字が表示されている。

(2) 平面及び底面

横長方形状内に、赤色で「カメヤマ」、白抜きで「ローソク」の各文字、その他白抜きで記号・符号が表示されている。

(3) 左右側面

前記(一)(3)と同じ。

(4) 背面

大小二個の白抜き矩形状が背面の全面積の略九〇%程度に施され、該各矩形内に各種文字、図形などが表示され、右端に白抜きのローソクの図形が上向きに配され、また下部に黄色で「カメヤマ」の文字などが表示されている。

2 被告包装箱は、全体が略縦長方形状の意匠であり、各面は極めてありふれた長方形に塗りつぶした紺地色で、正面、背面及び左右側面は縦長方形状、平面及び底面は左右側面の略二分の一の矩形状からなり、各面の具体的な構成は次のとおりである。

(一) 正面

略中央位置に下部が弧状の哺乳びん状立体形状の窓が施され、該哺乳びんの乳頭部先端の赤色模様の背景に、黄色と大小四本の白色細線の同心円輪との結合図形が、正面の横幅八〇%程度に広大に、かつ該びんの肩幅位置に接する態様で描かれ、該同心円輪図形の上端に赤色の「TAKARA」、白抜きの「ローソク」の各文字が上下二段に表示され、また、窓の左右に品質を示す漢字、その他記号・符号などが表示されている。

(二) 平面及び底面

平面には、赤色の「タカラ」、黄色の「ローソク」の各文字、その他記号・符号が、底面には、赤色の「宝」の文字、その他記号・符号が表示されている。

(三) 左右側面

青色線でローソクの図形が表され、そのローソク図形内に左側面と右側面とで向きを変えて、赤色で「TAKARA」、黄色で「特選」、白抜きで「ローソク」の各文字が表示されている。

(四) 背面

中央より下半分に大小三個の白抜き矩形状が施され、その内部に各種文字・図形が表示され、上半分に、炎が赤色に灯った一本の白色ローソクが青色燭台に突き立ち、燈火を中心に内側から外側へ順に白色、黄色、白色、空色、紺色を施してなる円輪及び濃い黄色の光明からなる同心円輪が描かれた図形が表示され、その他品質を示す漢字、白抜きの「タカラローソク」の文字が表示されている。

3 右のような原告包装箱と被告包装箱を対比すると、次のような明らかな差異がある。

(一) 正面

原告包装箱の「窓」は、従来より類型的に使用されてきた公知公用の何ら特徴を有しない通常のアーチ立体形状にすぎない。これに対して、被告包装箱の「窓」は、哺乳びん状立体形状であるから顕著に相違するばかりでなく、該哺乳びんの乳頭部先端の赤色模様の背景に黄色と大小四本の白色細線の同心円輪との結合図形という彩度の鮮やかな円形模様が一体不可分に描かれている。

また、原告包装箱に表示された白抜きの「KAMEYAMA」、黄色の「カメヤマ」の各文字と、被告包装箱に表示された赤色の「TAKARA」の文字は、その書体の外観、色彩、称呼及び観念が異なるし、被告包装箱には、原告包装箱(1)におけるような傘状赤色モノグラム図形や原告包装箱(2)におけるような灯った三本の白色ローソクと段違いの青色燭台の図形などは表示されていない。

(二) 平面及び底面

被告包装箱には、原告包装箱(1)におけるような傘状赤色モノグラム図形は表示されていない。また、原告包装箱(2)に表示された赤色の「カメヤマ」の文字と被告包装箱に表示された赤色の「タカラ」及び「宝」の文字とは、その片仮名の字画あるいは文字の種類が異なるし、「ローソク」の文字が、原告包装箱(2)においては白抜きであるのに対して、被告包装箱においては黄色である。

(三) 左右側面

原告包装箱に表示された赤色片仮名の「カメヤマ」の文字と被告包装箱に表示された赤色の「TAKARA」の文字とは、文字の種類が異なる。また、被告包装箱においては、「TAKARA特選ローソク」の文字が青色線で表されたローソクの図形で囲まれている。

(四) 背面

原告包装箱(1)に表示された傘状赤色モノグラム図形及び灯った三本の白色ローソクと段違いの青色燭台の図形、並びに原告包装箱(2)に表示された白抜きのローソクの図形と、被告包装箱に表示された灯った一本の白色ローソクと青色燭台の図形とは、色彩を含む構成を全く異にする図形である。

その他、原告包装箱(1)に表示された黄色の「カメヤマローソク」、原告包装箱(2)に表示された黄色の「カメヤマ」の文字と、被告包装箱に表示された白抜きの「タカラローソク」の文字とは、色彩、字画が全く異なる。

4 以上の類否判断について、原告は、時と場所を異にするいわゆる離隔的観察の観点がない旨主張するが、被告は、対比的観察をし、かつ離隔的観察を含む全体観察をした上で非類似との結論を出したものである。

なお、原告提出の甲第二二号証の津地裁昭和四九年一二月一二日判決は、本件とは事案を異にするものであり、しかも、同判決は、原告の包装箱が取引者とりわけ需要者の注意を強く惹きつける特徴は、箱の地色が紺色であること、表面に燭台と三本の炎及び光輪のついたローソクを配したこと、裏面にローソクの形状を白抜きしたことにあると判示しているのであるから、同判決によれば、本件の対象たる被告包装箱は原告包装箱に類似していないことになる。

三  争点三(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対して賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

被告は、被告包装箱に収納したローソクを、昭和五六年頃から平成七年一〇月までの間、少なくとも年間平均約一〇〇〇万円、合計約一億三〇〇〇万円分販売し、少なくともその一〇%である一三〇〇万円の利益を得たものと推定される。

そして、不正競争防止法五条一項により、被告の得た右利益の額は、原告が被った損害の額と推定される。

第五  争点に対する当裁判所の判断

一  争点一1(原告包装箱は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)及び争点二1(原告包装箱は、原告の商品表示として著名性を取得しているか)について、併せて検討する。

1  検甲第一号証の1・2、第四号証の1・2、別紙目録(1)及び別紙目録(2)によれば、原告包装箱は、正面、背面、左右側面、平面及び底面がいずれも長方形からなる通常の薄型直方体の包装箱であり、各面がいずれも紺地色で白色の縁取りがされているという基本的構成であって、各面の具体的な構成は、それぞれ次のとおりであることが認められる。

(一) 原告包装箱(1)について

(1) 正面

上部が緩やかなカーブを描く縦長長方形状の窓が大きく設けられていて、中に収納されたローソクが見えるようになっており、窓の上に白抜きで「KAMEYAMA」の文字及び赤色で「KAMEYAMA」の文字と図案化された「亀」の文字とを結合した別紙商標目録記載の登録商標(甲九の1~6。以下「原告登録商標」という)が、窓の下に黄色で「カメヤマ」の文字が、青色で窓の右側に「最高」、左側に「級品」の文字がそれぞれ印刷されている。

(2) 背面

中央に、青色燭台に炎が赤色に灯った三本のローソクが立てられ、それぞれの赤い炎を中心に黄色、青色等を施された同心円の輪が部分的に重なるように配された図柄が大きく描かれており、図柄の上に赤色で原告登録商標が、図柄の下の長方形状の白抜き内に保管・使用上の注意が、その下に黄色で「カメヤマローソク株式会社」の文字、白抜きで原告の住所、電話番号が印刷されており、そのほか、青色で「暑中保証」と印刷されている。

(3) 左右側面

赤色で「カメヤマ」、白抜きで「ローソク」の各文字が印刷されている。

(4) 平面及び底面

赤色で原告登録商標が、白抜きで「三号 20本入 正味225G」の文字が印刷されている。

(二) 原告包装箱(2)について

(1) 正面

上部が緩やかなカーブを描く縦長長方形状の窓が大きく設けられていて、中に収納されたローソクが見えるようになっており、窓の上に、前記(一)(2)記載の図柄と同じ青色燭台・三本のローソク・同心円の輪からなる図柄が小さく描かれるとともに、青色で「最高級品」の文字が印刷され、窓の下に白抜きで「燃焼時間 約1時間40分」「225G 20本」「大ロー3号」の各文字及び黄色で「カメヤマ」の文字が印刷されている。

(2) 背面

中央の大きな白抜き内に使用時の注意及び保管上の注意が印刷され、下に黄色で「カメヤマ株式会社」の文字が印刷され、右横に白色ローソクの図柄とその中に「燃焼時間約1時間40分 実物大」の文字が印刷されている。

(3) 左右側面

赤色で「カメヤマ」、白抜きで「ローソク」の各文字が印刷されている。

(4) 平面及び底面

赤色で「カメヤマ」、白抜きで「ローソク」の各文字が印刷されているほか、「大ロー3号」「225G 20本」の各文字が印刷されている。

2  原告包装箱は、右1認定のとおりのものであるところ、原告は、A 箱の基本的な色彩は濃紺である、B 箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は白、赤、黄、青の四色である、C 箱を構成する六面のすべてが白枠で囲まれている、D 箱の正面は「窓あき」となっていて収納したローソクが見える、という点をもって原告包装箱すなわち原告包装箱(1)及び原告包装箱(2)の特徴であると主張し、原告は遅くとも昭和四六年から右AないしDの特徴を備えた原告包装箱に収納してローソクを販売してきており、全国各地で莫大な数量を販売し、また、最近では年間約三億円もの巨費を投じてテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等を通じた宣伝広告活動を行っており、その結果、右AないしDの特徴を備えた原告包装箱は、遅くともその採用から数年後の昭和四八、九年頃には、その中に収納されているローソクが原告製造にかかる商品であることを表示する商品表示として取引者・需要者の間において周知性を取得し、著名性をも取得している旨主張する。

証拠(甲一ないし三、五ないし八、一〇の6~9、一一の1・2、一二、一三の1・2、一四ないし一六、一七の1・2、一八、一九の1~5、二一、検甲二の1~15、三、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和二年二月にローソクの製造販売を開始した個人営業の亀山蝋燭製造所が昭和二一年一〇月二一日に法人化された会社であり、個人営業時代を含めると約七〇年間にわたってローソクを製造、販売してきているものであって、国内における市場占有率は相当高いものとなっており、昭和三八年以降は年間一千数百万円から二千数百万円程度、昭和四九年以降は一億円以上、平成四年、五年には三億円弱の費用をかけて業界紙(誌)、カタログ、チラシ等により宣伝広告を行っており、そのローソクを収納する包装箱として、昭和四六年からは原告包装箱を採用していることが認められ、その結果、原告が商標登録を受けている「カメヤマローソク」の商標(甲一〇の1~10)、あるいは原告登録商標(別紙商標目録。甲九の1~6)は取引者・需要者の間においてある程度知れ渡っていることが窺われる。

不正競争防止法二条一項一号にいう商品表示の例として「容器若しくは包装」が挙げられているところ、原告の前記主張は、原告包装箱の前記1認定のような図柄や「窓」の形状を含む具体的構成ではなく、これから抽出した抽象的な前記AないしDの点をもって原告包装箱の特徴であるとし、原告の商品であるとの出所表示機能を有することが明らかな「カメヤマローソク」の登録商標や原告登録商標とは別に、ないしはこれらと並んで、原告の商品表示として周知性・著名性を取得しているとするものである。

しかしながら、まず、Aの、箱の基本的な色彩は濃紺である、Bの、箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は白、赤、黄、青の四色である、という色彩の点についていえば、そもそも紺、白、赤、黄、青は、原色であって、何ら特殊な色ではないし、証拠(乙三六、三八)によれば、これらの色は、世界的にみても日本人についてみても、紺(青)が第一位であるのを筆頭に好きな色の最上位を占めるものであることが認められ、現に、原告代表者の供述によれば、そもそも原告が商品の包装箱の地色(原告のいう基本的な色彩)に紺色を使用したのは、原告包装箱を採用した昭和四六年より前の昭和二五年頃のことであって、タバコの「ピース」の包装箱に使用されていた紺色を見本としたものであることが認められるのであり、前記宣伝広告にしても、その内容が不明であり、特に原告包装箱におけるAの、箱の基本的な色彩は濃紺である、Bの、箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は白、赤、黄、青の四色である、という色彩の点を原告包装箱の特徴であるとして強調して宣伝広告がされてきたと認めるに足りる証拠はないから、これらの点が原告包装箱の特徴であって原告の商品表示として周知性・著名性を取得しているということはできない(のみならず、色彩は古来存在するものであって、本来何人も自由に使用しうるものであり、紺、白、赤、黄、青というようなごくありふれた色彩について特定人にその独占的使用を認めるとすると、他の者は自己の商品に付する色彩の選択肢の範囲を狭められ、極端にいえば最後発の業者は商品に付する色彩がなくなってしまうというような事態にもなりかねないから、複数の色彩の具体的な組合せであればともかく、地色が濃紺であるとか、抽象的に箱に表示される文字や図柄に使用される色彩は白、赤、黄、青の四色であるという点には、不正競争防止法二条一項一号による保護は認められないというべきである)。

Cの、箱を構成する六面のすべてが白枠で囲まれているとの点については、証拠(昭和四六年より前の刊行物である乙三ないし五、二一の1・2・4、二二の1・2・4、二三の1~3、昭和四六年以降の刊行物である乙九、一〇、二五の1・3・4、二六の1・2・4、二七の1~3、二八の1~3、二九の1~8、三〇の1~5、平成八年五月上旬に被告が入手したローソクの包装箱の現物である検乙一ないし六)によれば、六面のすべて又は一部が白枠で囲まれている包装箱は、原告包装箱の採用された昭和四六年の前後を通じて、ローソクや石鹸等の包装箱として種々知られていることが認められ、格別目新しいものではなく、むしろありふれたものというべきであるから、Cの点が原告包装箱の特徴であって原告の商品表示として周知性・著名性を取得しているということはできない。

更に、Dの、箱の正面は「窓あき」となっていて収納したローソクが見える、という点についても、証拠(昭和四六年より前の刊行物である乙一、二、六、昭和四六年以降の刊行物である乙七、九ないし一二、二六の1~4、二七の1~3、二八の1~3、二九の1・3~8、三〇の1~3・5、平成八年五月上旬に被告が入手したローソクの包装箱の現物である検乙一ないし六)によれば、包装箱を開けることなく包装箱のままで内容物が見えるようにするために包装箱に「窓」を設けることは、昭和四六年の前後を通じて、ローソクや石鹸等の包装箱として種々知られていることが認められ、きわめてありふれたものというべきであり、「窓あき」が包装箱の特徴となりうるとすれば、「窓」が設けられているということ自体ではなく、その「窓」の具体的な形状であるといわなければならないから、やはり、Dの点が原告包装箱の特徴であって原告の商品表示として周知性・著名性を取得しているということはできない。

原告は、仮にAないしDの個々の点が格別の特徴というものではないとしても、そのことは、これらの組合せが格別の特徴でないことを意味するものではないのであって、このことは、原告・被告以外の第三者製造販売にかかるローソクの包装箱において、原告包装箱におけるAないしDの点の組合せに類似する包装箱が存在しないことから一目瞭然である旨主張する。個々の点は格別の特徴とはいえない場合でも、それらの点が組み合わされることにより格別の特徴といえるようになることがありうることは否定できないが、原告包装箱において原告が特徴として主張する前記AないしDの点は、個々の点が前記のようにありふれたものである以上、これらを組み合わせることもまた容易に考えつくことであって、組み合わせたことによっても格別の特徴を見出すことはできず、その組合せの仕方が端的に商品表示として一体的に把握できる態様でもなく、いわば原告包装箱における色彩や形状を抽象的に取り出して羅列したにすぎないものであり、しかも、特に原告包装箱におけるAないしDの点を原告包装箱の特徴であると強調して宣伝広告がされてきたと認めるに足りる証拠もないから、原告の右主張も採用することができない。

3  以上のとおり、原告包装箱は、原告主張のAないしDの点を備えているからといって、原告主張の昭和四八、九年頃はもちろん、現在においても、その中に収納されているローソクが原告製造にかかる商品であることを表示する商品表示として取引者・需要者の間において周知性・著名性を取得しているとは認められない。

二  そうすると、原告包装箱が右周知性・著名性を取得していることを前提とする原告の不正競争防止法二条一項一号・二号、三条、四条・五条一項に基づく請求は、争点一2及び二2を含むその余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

第六  結論

よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

目録(1)

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目録(2)

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目録(3)

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商標目録

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